2017年2月23日木曜日

病因究明の難しさ

今回、ある患者さんの症状に関してその理由を突き止めて改善することに成功しました。

とは言ってもそれが自慢になるものとかそういう類の話ではなく、むしろ全く反対で、それが見つかるまでの患者さんの苦しみと私自身の悩み抜いた時間のほうが私にとってはよっぽど(患者さんには申し訳ないのですが)勉強になりました。

有る70代の女性の患者さんでした。主訴は慢性の咳嗽でして、咳はここ一年半ほどしつこく続いており患者さんもほとほと困るだけでなく、この方の入っている施設の看護師さんも「先生なんとかなりませんか」と言われる程のものでした。

慢性咳嗽と一口に言っても、その診断と治療は感染性、非感染性の種別もさることながら、細目に入っていくと種々の理由による喘息、アレルギー、逆流性食道炎、タバコなどの喫煙による慢性閉塞性肺疾患、気管支拡張症、結核、癌、喉頭の形態異常、果ては心因性のものまであります。

一つ一つをフローチャートに落としてみたり、いろいろな教科書を読んで見ながら種々の推測を入れつつ診断と治療にあたっていかなければならないわけですが、この方の場合は若い頃は結構な喫煙者だったこともあった上に若い頃から喘息持ちでもありましたので、上記の中でも煙草によるCOPDや喘息性のものなども強く疑って調べていくのですが、単純X線やCTなどの画像もきれいで呼吸音も正常、鎮咳剤は通常使用されるものなどはほぼ無効でステロイドを使用した時にのみやや症状が軽快するのですが、何十種類もの原因抗原を一発でスクリーニングする通常のアレルギー反応のスクリーニングには本当に何も引っかかってきませんでした。

ああでもないこうでもないと悩みながらハッと考えたのは、もしかして他の医師から貰っている薬に何かその誘引はないか?ということ。実はこの方ややdepressionの傾向がありそれに対する精神科からの比較的標準的な投薬を受けておられました。

そこで、その投薬内容を一つ一つ調べ上げて、薬品の添付文書やウェブ検索で判明している範囲で記載されている(頻度不明のものまで入れて)副作用を調べていく中で少しでも咳に言及しているものを書き出すと5種類ほどが網にかかりました。
そこで、患者さんに協力してもらい、これらの薬のなかで最も長く飲んでいる薬から時系列に手帳とカルテから調べていくとどうも怪しいものが出てきました。

それは、あるベンゾジアゾピン系の向精神薬。しかもそれは抗うつ薬としては日本において精神科医にスーパースター・クラスの取扱を受けむしろ濫用と言われているレベルの薬でした。依存性の強い薬でしたので抜いたらドーンと患者さんの精神状態が落ち込まないかと感じはしたのですが、ここは一つ看護師さんの協力を得て”薬を抜く”事にいたしました。(処方されていた精神科医の許可を得て。)

すると、喪黒福造ではありませんが”ドーン”という感じの大当たり。咳がピタッと止んでしまったのです。ただし当初の危惧通り精神的には明らかな下向きコース。咳は止まれど・・・となりましたので、今度はそのベンゾジアゾピン系の薬と効果は似ているけれども薬理学的には骨格の異なるものを少量投与した所、これまた咳無しで元気になられて取り敢えずメデタシとなりました。

それにしても犯人が他科から出ていた薬だったとは・・・。咳を誘発する薬というのは医師の常識としては有名なものはいくつか有るのですが、今回のものは添付文書にも記載はなくウェブの二次情報でピックアップされた情報でした。おくすり手帳を最初にチェックした段階でもわからなかったのですが、大変勉強になりました。

何よりも良かったのは患者さんが幸せになられたこと。これに尽きます。本当に良かったです。

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